福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1269号 判決 1950年4月01日
被告人
富高麻須雄
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役四月及び罰金千円に処する。
右罰金を完納することができないときは金五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
弁護人巽圭三郞の控訴趣意について。
成る程所論の如く原判決は被告人の判示賍物運搬の事実を検察事務官作成にかかる平川実の第一囘供述調書謄本(検第七号)と他の証拠とを綜合して認定しておるのであつて右検第七号は検察事務官(検察庁法第三条参照)の面前における平川実の供述を録取した書面ではあるが右事務官は検察官の事務取扱を命ぜられた者(検察庁法第三十六条参照)だから刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に所謂検察官の面前における供述録取書面と同視すべきであるが、供述者の署名若しくは押印がないから同法条の直接適用はなく同法第三百二十三条第一号に該当する書面としての証拠能力は認めうるが之に記載された平川実の供述の趣旨内容を採つて被告人の犯罪事実認定の証拠とするには、同法第三百二十一条以下の諸規定が同法第三百二十条の例外規定であることに鑑み、同法第三百二十一条第一項第二号の要件該当の有無により之が証拠能力の有無を決すべきものと解するを相当とするところ、右書面に記載された平川の供述と同人が原公判廷においてした供述とは相反するものではなく又実質的に異つたものでもないから、前記書面(検第七号)は結局証拠能力がないと云わなければならぬ。然らば原審が弁護人が之を証拠とすることに同意していないに拘らず犯罪事実認定の証拠としたことは違法であつて、この違法は判決に影響を及ぼすことが明かであるから爾余の論旨に付判断を用うるまでもなく刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十九条に従い原判決を破棄するの外はない。